理事長からのメッセージ

私たちは毎日の生活の中で、いろいろな食べ物からエネルギー、ビタミン、たんぱく質やカルシウムなどの必要な栄養素を摂っています。今回は日常的に口に入れている「食べ物」について考えてみたいと思います。ほんの30年位前までは、食べ物に関する認識が全く違っていたように思えます。今のようにコンビニエンスストアやファストフード、テイクアウトのお弁当屋などが競うように軒を並べていたり数字が並んだレシピブックで作っている家庭料理の時代とは違い、その時代の人達は何をどれだけ摂れば良いかということを数値的なものではなく、自然の欲求と経験から来る知恵と工夫によってとらえていたように思えます。自分達が慈しんで種から育て収穫した野菜や、山や海で採れたもの(これを“幸”と呼ぶのはまさに象徴的なことではないでしょうか)などの豊かな食材によって、バランスの取れた食生活を充足させていました。


しかしながら、現代の生活においては、24時間誰もがどこででも手を伸ばせばさまざまなものを食べることができるのです。最近日本で空腹感を感じなくなった替わりに私たちが得たものは何なのでしょうか。そして何か大切なものや感性をなくしてきたのかもしれません。栄養素を食品成分表に照らし合わせて「頭で考えて」摂取することが正しいことのようになってはいないでしょうか。カロリーをどれだけ、ビタミンをどれだけ摂れば「健康」になる、といったようなマニュアル化された生活にとらわれているように感じるのです。それらの食べ物がどの産地でどのように作られ、どのような味なのかということは大切なことではないようになっているようです。見た目の派手さや調理の手軽さで食材を選びがちになり、食べ物の持つ本来の味や匂いがないがしろにされているように思えます。


本来、私たちは自分の身体に足りないモノや栄養素を本能的に分かるという機能を持っているはずです。だからこそ、長い間「人類という種」が生を受け継いで来ることができたのではないでしょうか。口当たりのよい食べ物だけを食べるのではなく、苦みとか辛みとか微妙な味わい、その中にある本当に私たちに必要なものを大切にし、日本の四季や風土に応じた食材を意識して食べることをもう一度考えてみてはと思います。ちょうど、今頃は太陽をたくさん浴びて育ったトマトや新ジャガや新玉葱等の野菜や旬の魚たちが店先に並ぶ時期です。それらを意識的に取り入れて調理し食べることにより、身体が「元気」を感じ、自然に「美味しい」といったり、笑顔が生まれる「楽しい」食卓になるなど、新しい発見があるはずです。自分の食べ物を理解して美味しくそして楽しく食べるということ、それはもちろんジャパンフードの原点でもあるわけですが、そんな一歩が私たちの本来の機能を甦らせてくれるかもしれません。