理事長からのメッセージ

物質的な豊かさを求めていた時代には、「衣」や「住」を充実させることが、「豊かさ」につながると考えられていました。しかし、バブルが崩壊し、「もの」や「環境」に対する価値観を根底から考え直さなくてはいけない状況に置かれたとき、わたしたちは「心」や「からだ」が健やかであることに価値があると考えるようになってきました。すなわち「生活」を充実させることで、「人生」が豊かになるということです。そんな中、現代の食卓は、個食化などといわれ、それぞれ個人が好きな時間に好きなものをひとりで食べるという状況になっています。こういう食環境に陥りその結果偏食などから、アトピー等の皮膚病への傾向が強くなったり、骨が弱くなったり、軟食が原因で歯並びが悪くなったりと、様々な現象になって現れてきています。食を正しくするという、その一見単純で簡単に見えることを行っていくには、素材の生産の場から、その食材と調理方法、食卓の在り方、果てはそれぞれの生活の在り方や、社会環境まで考えて行動することが必要になります。そういったことがわたしたちの明日を支える健康な身体を作ったり、ポジティブな生活を創りだし、しいては社会的なさまざまな問題への解決の一端を見いだすことへも結びついていくでしょう。「ジャパンフード」という言葉は、この混とんとし混乱した時代にあって、「人間の存在」への問い掛けのキーワードになってきているように思えます。


ジャパンフードは、自分たちの食と生活を考えるとともに、地方の特色ある食材や料理法を考察することを通して社会や文化を見直し、今ある多様な選択肢に加え新たな選択肢を生み出し未来へ手渡そうということも活動のひとつにしています。そのために、世界の各地域において、多様な文化がもたらす暮らしの豊かさを見直すことを進めていこうと考えています。私たちの先達が培ってきた「食と文化」を今世紀のなかで発展させ、継続していくには世界は時間的、人的に瀬戸際に来ているといえます。「知恵」として先達から伝承し受け継いできた、「地域固有の食材や調理方法」などを、いかにして次世代に伝えていくかも大きな課題のひとつです。私たちの国の独特の味覚を理解し、表現できるような感覚を伸ばし、育てることを今からすぐにでも始めないと、とても間に合わない感があります。これからは「美味しいもの」を作るという「生産の場」から、「美味しく食べる」という「消費の場」までのすべてを人間として「考えていくこと」がジャパンフード活動の本質になっていくと思います。生きるためだけに食べるということはヒトのあるべき姿から遠ざけていきます。「生活」と言う言葉があります。これを「生」を「活かす」ために食を考え食事をしていくことととらえ、「生活の食事」を大切にしていきたいと思います。